インターネットが日常に浸透してはや25年。現代の通信速度ではインターネット上のコンテンツは写真が当たり前になりました。その結果、カメラマンの需要が高まり、プロもアマも関係なく国民全員がカメラマンになる時代になりました。このカメラマンがあふれた時代だからこそ「自分が何者だ!」と世の中に叫ぶには「圧倒的な偏愛」が必要です。

ONE PHOTOフォトグラファーの「偏愛」を語る本企画。その第1回目はONE PHOTOの創業メンバーで、チーフフォトグラファーの中村浩史の偏愛です。普段の撮影や被写体を撮る魅力、これからカメラをはじめる人へのアドバイスなど写真を撮影する魅力をたっぷりとお届けします。

中村浩史 
福業フォトグラファーチームONE PHOTOのディレクター兼チーフフォトグラファー。平日は某カメラメーカーで一眼レフカメラの設計を行う。スポーツや高級車など、主に「動き物」を中心とした、ONE PHOTOの中でも難易度の高い撮影を担当。
Official : https://onephoto.jp/photographers/hiroshi_nakamura/
Twitter : https://twitter.com/cn_hiroshi

気がつけば動きモノ撮影歴24年に|ONE PHOTO チーフフォトグラファー 中村浩史

−− 簡単に自己紹介をお願いします。

ONE PHOTOの創業メンバーで、現在はスポーツや自動車並走撮影などの動きモノ撮影をしています。技術的な部分のサポートや機材の選定など、僕自身が撮影をするだけでなく、活動するフォトグラファーのサポートも担当しています。

今日は僕が自分の「好きな写真」について語って良い、ということでいささか緊張しますが、熱く・楽しく、自分の好きな「動きモノの撮影の楽しみ方」をお伝えしたいと思います。

──ありがとうございます。普段はどんなお写真を撮影しているのでしょうか?

飛行機/鉄道/モータースポーツなど乗り物を中心に撮影しています。

中学時代から鉄道や飛行機を好きになり、それらをいつも追いかけていました。気が付けばいつの間にかそのマニア活動の一つとして動きモノを撮影するようになりました。そこからかれこれ24年の撮影歴です。

その中でもここ10数年は米軍や自衛隊等のミリタリー系航空ファンとして隊員や同じ趣味の仲間と交流しながら、戦闘機をメインに撮影しています。これは決して戦争礼賛というスタンスではなく、純粋にものづくりの最高峰の一つが戦闘機だと思っているからです。なぜなら戦闘機は人類が耐えられる極限のスピードを出す乗り物で、かつカメラに収められる限界なので、ここの沼に全力でのめりこんでいます。

──圧倒的な写真の数々ですね!こうした動きモノの写真を撮り始めたきっかけを教えてください。

一言で言えば好きになった乗り物が、動いていたから(笑)。

世の中に出ている乗り物って、実は凄い人たちが作った結晶なんですよ。自分もエンジニアをしているからこそ分かるのですが、その裏には想像を絶するような試行錯誤や研鑽があるんです。特にこうした命を運ぶ乗り物の場合は、自分が経験している以上の試行錯誤の裏側に思いをはせるのです。そんなすごい人たちが作った“すごい乗り物”を、ただ見ているだけではなく(見ているだけでも楽しいのですが) 自分の手で記録に残したいと思ったのが始まりです。

実際問題、僕のように被写体が好きである事は、現在でも撮影に対する大きなモチベーションとなっています。

最大の魅力は、一瞬の輝かしい姿を収めること

──動いているものを撮る魅力について教えてください。

そうですね。乗り物などの動くシーンを撮りたくなるのは、それが「動いているときこそが本来の姿」だからです。乗り物は常に圧倒的に速いスピードで動いているので、肉眼では一瞬しか見ることが出来ません。だからあっという間に過ぎてしまう「本来の姿」を撮影することこそ、動体写真を撮影する魅力であり意義だと思っています。

肉眼では一瞬で過ぎてしまう、輝かしいシーンを永遠に写真としてとどめることが最大の魅力です。そして、自分の技術力を高めることで、自分の目で見えたように記録できます。そうすることにより、世界中でまだ誰も見ていない、撮ることに成功していない光景に出会えます。

一つ、例を挙げて説明させてください。

自分が会社員として支給されている全ての有給をつぎ込んで、ここ数年アメリカのデスバレー(※)に通って「戦闘機の訓練風景」を撮影しています。

※デスバレー:デスヴァレー(英:Death Valley、デスバレーとも表記、直訳: 死の谷)は、アメリカのカリフォルニア州中部、モハーヴェ砂漠の北に位置する深く乾燥した盆地で、デスヴァレー国立公園の中核をなしている。また、世界最高の気温56.7°C(134.0°F)を記録したこともある。

Wikipedeiaより

ここでの戦闘機撮影は格別の達成感があります。あまり知られていませんが、世界的に有名な観光地のグランドキャニオンから続く「岩とサボテンばかりの高温で過酷な砂漠地帯の一角」は、実はアメリカ空軍戦闘機の低空飛行訓練ルートとなっています。デスバレーの谷間を時速800kmを超える極限のスピードで飛行訓練しているのです。

そこで、強烈な太陽光の注ぐ崖の上で朝6時から午後4時までの10時間、いつくるかも分からない航空機の飛来をじっと待って撮影に臨むという、自分でもクレイジーだと思える撮影をしています。

ちなみに、わざわざ崖の上から撮影するのは谷間を飛行する戦闘機を上から撮影することができる、世界でもここからしか撮れない光景に出会えるからです

文字通り死を覚悟する灼熱のデスバレーは、風さえなければ自分の血液が流れる音すら聞こえる異常な環境です。この状況下で集中力を研ぎ澄ましながらカメラを構えていると、何か偉大な地球と向かい合っている気さえしてきます。

見えているものが何一つ動かず、耳をどんなに澄ましても無音が続くと、必然的に自分とは何か、地球とは何か、宇宙とは、、と毎回深く人生の命題を考えるかのような不思議な感覚に陥るのです。わざわざ地球の裏側までカメラを持って出かけて何をやっているんでしょうね(笑)。

ちなみに、戦闘機の撮影は音速(約500ノット = 時速800km)に近い速度で飛んでくる機体の撮影です。谷底を抜ける飛行機は谷に阻まれ目視できません。かすかに遠くのほうでエンジン音がした2-3秒後には撮影可能な谷と谷の間に音速で現れます。

この一瞬の撮影時間のために、日本からデスバレーへ遠征し、自分をぎりぎりまで追い込んで写真を撮ることが最高の楽しみです。そして、この圧倒的な非日常に浸かる感覚こそが、私にとっての「動きモノを撮影する」意味なのです。

こんな場所に篭って撮影するので、遭難の危険もありえる遠征になります。ですので、可能な限り飛行機撮影の仲間と一緒に出かけるようにしています。それでも、急な都合やどうしても撮りたい衝動が抑えられないときには、デスバレーの崖の上に自分ひとりで撮影を行う状況もありえます。

そのときに航空機が飛来すると、文字通り「世界中で真に自分ひとりだけが被写体と対峙する瞬間」があるのです。この自分自身にしか成し得ないことをするのは日常生活は勿論、普段の撮影でもあまり経験することがない貴重な興奮できる体験ではないかと思います。

──すごい熱量ですね!

そして、幸運なことに今の時代はSNSなどのネットワーキングツールの発達によって、言語も国境も緩やかに溶けています。撮影した写真をインターネット上に公開すると、世界中の航空写真のファンが私の写真を見てくれます。その結果、直接のツテがなくてもそのパイロットまで写真が届き、結果として写真をプレゼントする機会が叶うことがよくあります。

私にとっては航空機写真の撮影は、自分が好きな乗り物を撮影する「趣味としての撮影」だけではなく、「世界を広げてくれるコミュニケーション」としての撮影としてもとても魅力的な撮影対象だと感じています。

使用する機材のセレクト

──動きものの撮影といえば、特殊な機材を使っているイメージですが、普段はどのような機材を使っていますか?

最高品質のプロ機材を利用するのが最も簡単な方法ではありますが、きちんと理詰めで機材をセレクトすれば、ハイアマ機でも動きモノの撮影は十分に対応できます。僕の場合はキヤノンのエンジニアということもありますので、現在はCanon EOS5Dsと EOS5D Mark4をそれぞれの撮影条件に合わせて使い分けています

Canon EOS 5Ds
Canon EOS 5D Mark4

例えば、望遠レンズとコンバータを利用しても十分に近づくことが出来ない場面では、高画素機の 5Ds を利用して撮影します。撮影後にトリミングしても救える可能性を高めるためです。

一方で、多少暗くなってきたりシャッタースピードを稼ぐ必要がある場面ではISO感度を高くしなければならないので、5D Mark4 を利用するなど使い分けています。

本来であれば、フォーカススピードの速い最上級機(Canonで言うところの、1DXシリーズ)を使ったほうがより歩留まりが高くなるとは思うのですが、フォーカススピードよりも重要なのは全体でのバランスの組み方だと考えているので、動体撮影については上記の機種で問題ありません。(※フォーカススピードはほぼ無限遠に近い部分で固定なので、そこから動かすのが非常に少ないのが航空機撮影のポイントです)

その他に拘っている機材は記録メディアです。実はメディアの書き込みスピードは動きモノの撮影では重要な要素です。と言うのも、連射が前提の撮影になりますので、ある程度のバッファを持って撮影が出来るように、基本的にはClass10を当たり前に使用します。さらに、その中でも書き込みスピードが95MB/s以上のものを使用するようにしています。

──レンズはどういったものを利用されていますか?

レンズですか?ある程度の望遠であれば大丈夫です。勿論、明るい単焦点の望遠のレンズであれば、それに越したことはありません。ただ、そういった機材がなければ動きモノは撮れないか?というと、それは違うと考えています。有利なだけであって必要条件ではないですね。

それよりも被写体を研究して、どういう写真が自分の機材で最大限に撮影出来るものなのか?を考える方が写真として楽しいかな?と思います。ちなみに、私はメインで利用しているのはCanon EF500mm F4L IS Ⅱです。

※Canon EF500mm F4L IS II

これに1.4倍、2.0倍のエクステンダーを利用することで焦点距離を被写体に応じて調整しています

動きモノ撮影は予測能力が必要

──動きモノ写真を撮る際に気をつけていることがあれば教えて下さい

動きモノの写真だけではなく、全ての撮影において同様ですが、常に“カメラの立ち位置”を想像しています動きモノの写真って、アクティブな撮影なので自分から考えたり、動いたりしないと撮れないんですよ。

相手がどう動くかあらかじめ想像することで、はじめて動きに合わせた写真を撮ることができるようになるんです。だから、想像力や予測能力は非常に鍛えられますね。「きっと、ここを通るんだろうな」とか「こういう展開で見せ場はここになるだろうな」と。こればかりは場数を踏んで自分の写真と何度も向き合わなければ鍛えられない動物的な勘かもしれません。

例えば、モータースポーツなどの写真を撮るときには、最終的な撮りたい写真をイメージしながら焦点距離はいくつか? 全景を撮りたいのかクローズアップしたいのか?撮影時間帯に応じて被写体にどう光が当たるのか?気象条件(風向き 気温 影落ち)はどうなっているのか?などをありとあらゆることを考えながら準備しています。

そして、一番重要なのはこれらを事前にイメージした上で「その日・その場所に立てるかどうか?」です。どんなに頭の中で思い描いたとしても、理想の場所に立っていることができなければ、撮影も何もないですからね(笑)。

航空機“Air to Air”を並走させた空撮を行いたい

──これから撮影したい写真などがあれば教えて下さい

まだ、世の中に認知されていない航空撮影の業態ですが、航空機界隈で “Air to Air”と呼ばれる航空機を並走させての空撮を行ないたいと考えています。地面から撮れる写真は航空機の活動領域のほんの一端であり、真の姿は上空の飛行中にあります。いつの日か、それをこの目で見て最高の航空写真を撮ってみたいと考えています。

実際、欧州にはカメラマンに対して空撮をマネジメントしている団体もあり、時間とコストと人脈さえ都合がつけば、体験する事は不可能ではありません。ただし、いつか本気でやるならONE PHOTOで何かしらの仕事にしてもらって、撮れたら最高だな!と。

上達のコツは被写体の理解から始まる

──これから動きモノ関連の写真を始める人へのアドバイスがあれば教えて下さい。

一見、カメラから離れるので遠回りのような気もしますが、動きものの撮影をする上で、被写体そのものを理解する事から始めると、上達が早いです。というのも、動きものはそのものの性質や構造、機能、ルール、そして魅力がわからないと、撮りづらいものがほとんどだからです。なので、なるべく多くの先人たちの傑作を見ることで撮影のイメージを膨らませることが大事です

また、その傑作がなぜ傑作写真なのか?ということを考える癖をつけると良いですね。多くの場合、その動きものの性質やルール、スポーツであればその面白さを顕在化させた写真が傑作写真になっています。

また、撮影をおこなったら必ずどんな写真が撮れたか、その時の立ち位置は合っていたか、被写体は自分の想像した通りに動いたかなど、PDCAのチェックとアクションを繰り返してください

これらを繰り返す事で、いつ来るのかわからない決定的チャンスに遭遇する機会を自分の力で増やすことができます。自分も動物的な勘がある程度育ってきましたが、それはこの自省の繰り返しにより身につけられたスキルです。

また撮影の立ち位置を決めてふと隣を見ると、事前に示し合わせていないのに日本を代表する有名プロカメラマンも同じ選択をしていた、なんてことに出会う機会があります。その時に「あぁ、自分が尊敬しているプロの撮影に近づけた」と、一人で喜んでいます(笑)。

それと、さっきも言いましたがあまり機材には拘らないで大丈夫です。特に「●●を持っていないとダメ」みたいな声には耳を貸さないでください。一時期は、自分も特定の機材が大事だと考えていた時期がありました。でも、実際は好きな被写体を撮影するに当たり、色々と創意工夫している間が一番楽しくて、いい写真が撮れるんですよね。

だからこそ、遠回りのように見えて一番の近道が被写体について理解するということです。自分も通ってきた道なので、最初から機材に頼りたくなる気持ちもよくわかりますが、まずは撮りたいと思っている被写体について学んでみる事をおすすめします

編集後記

圧倒的な熱量で中村さんにお話を伺った動きモノ撮影の魅力。そこには、被写体を愛する気持ちが、どこまでも追いかけて撮影するモチベーションに繋がっていました。すべての有給をつぎ込んでまでアメリカのデスバレーへ撮影に出かけると聞いたときは、非常に驚きましたが、そこまでの熱量があるからこそ、一瞬しか見れない光景を逃さず撮影できるのではないかと感じました。みなさんもぜひ、自分が好きな被写体を見つけて、追いかけてみてくださいね。

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