前回公開して大反響だったONE PHOTOの偏愛シリーズ第1回・中村浩史の「動体撮影の魅力」に続いて、第2回目は同じくONE PHOTOチーフフォトグラファーであり、東京カメラ部10選でもある原田義之による「夜」の偏愛をご紹介させていただきます。

ネット上のコンテンツがどんどんリッチになっていく現在は、プロもアマも関係なく国民全員がカメラマンになる時代です。だからこそ「自分が何者だ!」と世の中に叫ぶには「圧倒的な偏愛」が必要だとONE PHOTOでは考えています。

そんな原田さんの「夜に対する偏愛」を、写真を始めたきっかけや夜が好きな理由、普段使用している機材など、撮影にまつわるお話をたっぷりとお届けします。

原田義之
ONE PHOTOチーフフォトグラファー。主に企業や自治体のイメージで利用する風景関連の撮影やスターポートレートなどの特殊な撮影商品を担当。好きな撮影は星空、花火など。
Official : https://onephoto.jp/photographers/yoshiyuki_harada/
Twitter : @yohar1114

−− 簡単に自己紹介をお願いします。

こんにちは。ONE PHOTOの風景チームでチーフフォトグラファーをしている原田です。普段はメーカーのエンジニアとしてソフトウェアを開発しています。写真を撮ることは自分にとって一番の趣味で、いつも写真のことばかり突き詰めて考えてます(笑)。

−− いつから写真を本格的に始められたんのでしょうか?

6年ほど前です。写真を始める前は仕事に忙殺されていて、自宅と会社の往復とその近辺でしか行動していませんでした。しかし、ふとしたきっかけで写真に興味を持ち、現在では、当時の数十倍密度の濃い生活をしています。

例えば、カメラを持つ前は年に1度、東京以外に出かけることがあるかないかといった家からあまり出ない生活を送っていましたが、写真を趣味にしてからは、積極的に外に出るようになりましたね。

−− 大幅な変化ですね。

写真を撮ることによって人生が変わったといったら大げさですが、日々の生活に彩りがでました。何より、カメラを手にしたことで「世の中には気がついていないだけで、こんな美しい世界が広がっていたのか」と気づくことができましたね。

−− ありがとうございます。普段はどんな写真を撮られているのでしょうか?

普段は星景、花火などの美しい風景を撮影しています。

その中でも、特に夜の写真が多いですね。

−− なぜ、夜の写真が多いのですか?

単純に夜型の人間なので、昼が苦手だからです(笑)。

半分冗談ですが、写真という点で真面目に答えると、情報量の差から意識的に夜を撮影するようにしています。昼間は明るく、何でもはっきりと見えますよね。でも私にとっては、情報量が多すぎて疲れてしまうのです。夜は暗い部分の色が消されることで情報量が減り、写したいものだけがはっきりと見えるので夜の方が好きなんです。

あとは、光と闇とのコントラストの美しさ。これは夜しか見ることができない美しさです。

まあ、なんだかんだ言って、自分の感性と夜の世界が近かっただけですね(笑)。

−− ポートレート撮影などをすることはあるのでしょうか?

ほとんどありません。なにしろ、コミュ障なので(笑)。

写真をやっていて日ごろ思うことなのですが、どんなに撮影を頑張っても上には上がいます。特にポートレートは撮影技術に加えて、コミュニケーション技術も必要になるので、尚更です。だから、撮るとしたら他の人と被らないような世界を撮るようにしています。

世界は美しい瞬間で溢れていることを伝えたい

−− 原田さんのONE PHOTOページに「他の誰でもなく私が撮影する世界」に挑戦しています。とあるのですが、「私が撮影する世界」について、もう少し詳しく教えてください。

一言で言えば、光が創り出す幻想世界です。世の中には数多くの美しい瞬間があります。例えば、肉眼ではほとんど見えない微細な光を写した天の川、一瞬で輝いて消えていく花火や流れ星など。私は写真を通じて、世の中にはこんな美しい瞬間が溢れていることを伝えたいと考えています。

都会にいると、街明かりなど光害の影響でそのような美しい光景を見ることができません。でも東京から少しでも離れられれば、夜空には美しい星空が広がっていることを確認できます。また、美しい瞬間は何度も見れるものではなく、訪れる時期や場所が異なれば、見られる光景が違ってきます。

だからこそ、私は自分のカメラで美しい夜の写真を撮影したいのです。その美しい光景が見られる場所が極寒地だとしても、その瞬間を収めるためなら撮影にでかけることは躊躇しませんね(笑)。

自分らしい世界観は「撮りたいイメージ作り」から始まる

−− 「私が撮りたい世界」を撮影するために行っていることなどがあれば教えてください。

まずはじめに、「こう撮りたい」というイメージを固めてから撮影しています。イメージを固めるにあたり、一番は自分が楽しいと感じることを追求しています。その他にも、誰かの何気ない一言や、他の人の作品を見て刺激を受けたりと、ふとした時に思いつくイメージも大切にしています。

そして次に撮りたいイメージに沿って、実際に撮れそうな場所を目一杯まで探します。実はこの作業がなかなか難しくて、常に頭を使いながらどうやったらイメージ通りの撮影が実現できるか?撮影場所や撮り方はどうするべきか?を徹底的にシミュレーションしていきます。

私の代表作の一つでもあるスカイツリーと花火が一緒に写った写真があるのですが、この写真も何箇所か撮影候補を見つけた上で撮影に挑みました。その結果、東京カメラ部10選2018にも選んで頂けたのですが、これは明確なシミュレーションの勝利です。

原田さんの代表作の1枚。最初に発表した2018年には大きな反響がありました。

本当は次に東京タワーと花火を同様の構図で一緒に撮影してみたいのですが、私有地か空から空撮もしくはPhotoshopで描かないと無理そうです(笑)。このように撮りたいイメージがあっても、実現困難な撮影もたくさんあったりします。

−− 準備をしっかりして撮影に挑むと、イメージ通りに撮れるのでしょうか?

必ずしもイメージ通りに撮影できるとは限りません。撮ってみたらイメージとは違ったなんてことも当然ありますよ。そんなときは、「なぜ失敗したのか?」「あのときどうすればよかったのか?」など自分の撮影を振り返って反省し、次につなげています

そうして撮影経験を積み上げていくことで、最初はうまく行かなくても、最終的に自分の理想通りの撮影ができるようになっていくと思いますね。

−− 普段はどんな機材を使用しているのですか?

本格的にカメラを始めてから一貫してSONYのα7シリーズを使っています

最初に買ったのがα7で、そこから α7 → α7II → α7RII → α7RIII → α7RIVとこれまでに入れ替えながら愛用してきました。

原田さんのα7シリーズ。カーボンシールを貼っているのは機材の保護と趣味だそうです!

−− なぜSONY a7シリーズなのですか?

技術の進化に対する受容の速さが気に入っているからです。

ここだけの話、α7が発売されて間もない頃に購入した時は多くの人にバカにされました。

「SONYはレンズラインナップが少ない」
「家電屋が作るカメラなんて」
「カメラで充電できるなんて家電みたい」などです。

機材について色々と言われましたがミラーレス&フルサイズという組み合わせに「システムとしての未来」を感じたのが購入の決め手でした。このあたりは「イノベーションのジレンマ」で語られている「破壊的イノベーション」だと感じた部分もあります。

今ではSONYのシェアが圧倒的に伸びていることからも、その影響は言わずもがなかと思います。当時の自分に言ってあげたい、ちゃんと考えて購入してよかっただろ?と(笑)。

−− 普段レンズはどのようなものを使用しているのでしょうか?

レンズは本当は単焦点でいきたいのですが、場所や画角といった要因によってズームレンズを使うことが多くなっています。これは画質よりも撮れること、撮りたい物を写せることを重視した結果です。ポートレートのように撮影ポジションを自由に変えられる時や取り直しが効くときは単焦点を使うことが多いです。

−− 他の道具や機材についてのこだわりはありますか?

風景写真では絶対に必須のアイテムである、三脚には強い思い入れがあります。過去の記事にPeak Designの新型カーボントラベラー三脚について私がレビューした記事があるので、よろしければそちらもご覧ください。

三脚はまず第一に手前に人や柵があっても高さで対処できることを重視しています。ですので、メインに使っている三脚はRRS TFC-34Lです。

風景の中に映える、原田さんの三脚メイン機材!!

これは最大180cm程度まで伸びるので、大抵の問題は回避することができます。風景撮影は、安定していない場所や風が強い場所で撮影することもあるので、雲台はロック力の強さでARCA SWISS の Z1+ をメインに使っています。

また、緻密な画角調整をする時にはギア雲台のARCA SWISS d4を使用しています。

他にも都心での夜景撮影では持ち運びの可搬性を重視してGitzoのトラベラー三脚を使用したり、フィッシュアイ*やチルトシフトレンズ*であったりとマイナーな用途で使用する機材があります。

実はこの辺の機材については、ONE PHOTOからも一部サポートを受けており、自分の創作活動のアイディアなどにもとても親身に相談に乗って頂けるので、非常に感謝しています。

*フィッシュアイ・・・魚眼レンズ。被写体を歪ませ、広範囲を撮影できる
*チルトシフトレンズ・・・レンズの光軸を傾け、遠近感やピントの合う範囲をコントロールできるレンズ。建築撮影などで用いられることが多い。

シュミレートの繰り返しが撮りたい写真に近づく第一歩

−− 事前に準備していることがあれば教えて下さい。

そうですね。すでに上でもお話ししていますがシミュレーションを大切にしています。どれくらい大切にしてるか?というと「現場では機材をセットしてシャッターを切るだけ」というレベルにもっていけるようになるまでシミュレートしています

どんなことにも通じますが、事前の準備こそが良い結果を導きます。ですので、まずは撮影する夜の①天気、②海に行くなら潮位、③日の出日の入り時刻、④月齢といった基本的な状況をは全て確認します。

特に撮影する時間によっても状態は変化しやすいので、詳細に調べて、可能な限りのシミュレーションを事前に済ませておきます。例えば、雲が出てきた場合の代替プランを用意したり、風が強かったときの装備の拡充などです。

そして次に、先程の情報をもとに撮りたいイメージを絞り込み、最終的に狙う構図を決めます。このとき大事なことは、撮影の候補場所も複数用意しておくことです。

これは、現地に行って想像していた状況と違った場合に、すぐに撮影場所を変更することができるようにするためです。予想に反した状況になったときに、どれだけ素早く動けるかが撮影可能なチャンスの回数に直接影響するのです。

−− これだけ準備していたら素敵な写真がたくさん撮れそうですね。

いえ、実はそんなことはありません。。。(苦笑)

練習でギリギリ100点取れるくらいに準備したとしても、本番は30点程度しか撮影できません。仮に、目をつぶって100点取れるくらいに準備をしても本番は70点くらいの撮れ高ですからね。

−− 目をつぶって100点を取れる状況で70点!!そんなにシビアにシミュレーションして撮影に臨んでいるんですね!撮影時に気をつけていることなどはありますか?

基礎的なことですが、1)白飛び黒つぶれと2)ピントには常に注意を払っています。

1)白飛びや黒つぶれになると、色が飛んでしまいデータがないのであとから色彩を取り戻すことができません。特に私が相対している自然や風景などの被写体はその日その場所でしか見れないものがすべてですので、できる限りそうした失敗がないよう注意しています。

2)また、風景写真の常としてピントは注意深すぎるくらいに意識しながら撮影しています。基本的にシャッターを切る前に必ず1カットごとにピントを確認するようにしています。

それはどれだけ準備していても予測不可能な事態が起こるからです。過去の失敗で言えば、ピントを無限遠に合わせておいたまま「少しなら場所を移動してもそのままで大丈夫!」と油断していたら、実は移動中にレンズが当たってピントがズレていたことや、足場が安定しないからこそ三脚を使っているのにブレていたこと、強風で機材が揺れてブレたこと、など数限りない失敗があげられます。

こうした失敗は発表している写真の裏側に実は大量に有るのです。ただし、このあたりはマニュアルフォーカス&長時間露光という私の撮影技法ゆえの課題でもありますけどね。(笑)

大事なことは、自分が感じる好きを追求すること

−− これから撮りたい写真があれば教えて下さい。

久しぶりに星空ポートレートや星空と車を撮影したいですね。でも、まだ自分の中で撮りたいイメージが明確になっていないので、もうしばらく経ってから撮影すると思います。今は、写真の構想を熟成させている期間ですね(笑)。

−− 構想の熟成!良い言葉ですね。原田さんの次回作を楽しみにしています!では、最後にこれから風景写真を始める人へのアドバイスをお願いします。

自分の好きや楽しいといった感情を何よりも追求してください!突き詰めて撮影をしていると、時にはうまくいかず、楽しくなくなってしまう事があると思います。でも、その時は他の人の写真を見て何が違うのか徹底的に研究して試行錯誤してみてください。きっと構図や露出などの基本原則や被写体の事を深く学べるはずです。

また、世の中には「安価に販売されているプリセット」や「誰でも撮れる50の技!」などのお手軽なテクニックは溢れていますが、そこに頼らず、自分で突き詰めて答えを出していくことが何より大事だと思います。

あくまで自分自身の言い方しかできないのですが「苦労したり、熟考して出したことほど、自力となって身につきます」試行錯誤する時間は時として辛い場合もありますが、その時間がかけがえのない自分磨きの時間だと思って、苦労すら楽しんで写真を撮って頂きたいと思います。

いつか、同じタイミングに同じ景色を前にフォトグラファーとしてお会いできたら最高ですね。その時は、人見知りでコミュ障ですが、是非、声をかけてくださいね(笑)!

編集後記

原田さんに見せていただいた圧倒的に美しい写真の数々は、自分の好きを追求し、かつ自分にしか撮れない写真とは何かを考え続けた結果なのだと取材して伝わってきました。徹底的なシミュレーションで撮影のチャンスを高める、そのストイックさには驚かされます。みなさんも是非、自分だから表現できる写真を見つけてみてくださいね。ONE PHOTOメンバーの偏愛記事は月に1本のペースで更新予定です!次回もお楽しみに♪